逆境時の心得
其の二十一 苦から逃げない。苦をみつめる。苦に立ち向かう
苦に直面したとき、人間はどうしても逃げたくなります。
しかし、苦から逃げ回っても何も解決できません。
まず、苦の実態を直視し、原因をしっかりと整理するのです。
原因がみつかれば解決の道筋は見えます。
其の二十二 道理を知る
仏教では、物事には、かならず「因(いん)」(原因)があって、それが「縁(えん)」に触れて、「果(か)」(結果)として現れ、後々まで「報(ほう)」(影響)をおよぼすと説かれています。
この道理を知ると、触れる縁によって、結果が変わることが理解できます。良い縁に触れるため、良い行いを続けて、同じ志を持つ人が一人でも多く、周りに集まってくるようにしたいものです。そうすれば、自分を取り巻く環境が見違えるように変わります。
例えば、信頼できない上司の元でも腐ることなく、来る日も来る日もまじめに仕事をしている(因(いん))と、その勤務態度をずっと見ていた他部署の上司(縁(えん))が、自分の部署に異動させてくれ(果(か))、それまで黙々と続けた修練がすべて新しい部署で生かされ、誰からも信頼される職員になれた(報(ほう))、ということです。
其の二十三 「やさしさは必ず返して貰える」事を知る
例をあげると、奥さんが、御主人の姑(しゅうとめ)と喧嘩ばかりしないで、精一杯、自分の親のつもりでお世話をすると、姑(しゅうとめ)にかけた「やさしさ」は、御主人がすべてあなたに返してくれます。
他人に対する「やさしさ」もおなじです。他人にやさしくするということは、世の中に「やさしさ」をむけることであり、きっちりと世の中が借りを返してくれます。職業柄、数々の例を見ているので、これは真理だと実感しています。
其の二十四 執着(しゅうちゃく)を捨てる
世の中の苦は、執着(しゅうちゃく)するから生じるのです。
例えば、過剰な欲をかき、お金もうけばかり考えていると、金亡者と化して人間や世の中を見る目が濁ってきます。こうなると正常な判断ができなくなっていますから、詐欺にも引っかかりやすくなります。善悪が判断できないのです。
そうならないためには、欲を捨て、お金に執着しないことです。目のくもりを無くすと、冷静に善悪の判断ができるので、詐欺にも騙されません。お金など無きゃ無いでどうにかなるさぐらいの軽い気持ちでいられると、ぐっと心は軽くなります。
其の二十五 逆境が成長させてくれる
人間は順調に事が運んでいる時よりも、困難にぶつかったときのほうが、いろいろな教訓を学べます。逆境を乗り越えることによって、一回りも二回りも成長させてくれます。
法華経(ほけきょう)の提婆(だいば)達(だっ)多(た)品(ほん)の中に「提婆(だいば)達(だっ)多(た)が善(ぜん)知識(ちしき)」という言葉があります。提婆(だいば)達(だっ)多(た)とはお釈迦(しゃか)様(さま)の弟子でありながら、お釈迦様の命をねらった者ですが、お釈迦様は提婆(だいば)達(だっ)多(た)をさして、良い友達(善(ぜん)知識(ちしき))とたたえたのです。お釈迦様は、提婆(だいば)達(だっ)多(た)がいたおかげで、たくさんの衆生(しゅじょう)を慈(いつく)しみ、その苦しみを抜くことができたと感謝しているのです。
其の二十六 何事も前向きに
人間は心の持ち方ひとつで、世の中の風景ががらりと変わります。
例えば、バスの時間が大幅に遅れたとしましょう。このときに怒りを爆発させるか、一息ついて「おかげで、まわりの景色を楽しむことができた。」と逆に感謝するかで、その後の影響には雲泥(うんでい)の差がつきます。
怒りでカッカすれば体にも良くないし、もしかしたら、ムカムカしたまま仕事をして大事なお客さんを逃がすことになるかもしれません。
逆に、バスが遅れたことは水に流し、「お陰様で風景を楽しめました。そしたら、普段気づかなかった街角の風景に、たくさんの発見をしました。」とでも思えたら、どれほど心がすがすがしくなるでしょう。心に曇りが無くなると、他人に対しても普段できないような気遣(きづか)いができて、仕事では、新しいお客さんをつかむことができるでしょう。
其の二十七 どこからもなく現れるホワイトナイト
正しい行いを黙々と続けていると、必ず観ている人がいて、それに応える行動を起こしてくれます。逆境の時には、救世主のような役割を演じてくれる人が現れるのです。
福祉の仕事は、時に誰の目にも触れず、一人馬鹿をみていると思いがちです。はっきり申し上げますが、それは、間違いです。大勢の高齢者の方々に接し、確信を持って言えるのは、陰徳(いんとく)(誰もみてないところで、黙々と続ける良い行い)を積むと、それは知らず知らずのうちに貯金となって戻ってくるのです。
千葉県の君津市で、障害者施設用の土地を探したときのことです。
2年の間、どこでも、どこでも反対を受け、あまりにも強烈な反対のため建設は不可能と撤退を考えたときです。2年の間、ずっと我々の活動を観察していた元君津町長(君津市名誉市民)の鈴木菊治郎氏が現れて、土地を提供してくれたのです。
鈴木氏は、我々の活動が本物なのか2年の間、ずっと見守っていたとのことでした。
其の二十八 逆境時のホウレンソウ(報告、連絡、相談)
どんな状況であろうと、同僚、上司には、常にホウレンソウ(報告、連絡、相談)をこころがけ、恥ずかしがらず協力を仰ぐべきです。一人で悶々と悩んでいても何の解決にもなりません。無益な時間の浪費が、傷口を拡げる可能性があります。悩む必要はありません。
プライベートなことであっても、社会的な問題を抱えたときは、早めに相談することです。各分野の専門家をはじめ、多様なネットワークがあるのだから、それを利用しない手はありません。一人でくよくよせず、早期の解決をめざすべきです。
何度でも言います。素早い消火が重要です。